香川県の「IT分野の専門家」をご紹介するWEBマガジン
今回ご紹介するのは、香川県高松市を拠点にしている齊藤大将さん
アプリ開発やVRコンテンツなどを手掛けている齊藤大将さん(株式会社シュタインズ 代表取締役)。
子供のころの夢はテニスプレイヤー。
エストニアに旅立つまではIT知識ゼロ、ITには興味がなかった齊藤さん。
そんな過去から、ITの世界で活躍している現在に至るまでのお話を伺いました。
海外留学経験・エストニアとの出会い
―まずはじめに、齊藤さんは海外留学経験があるとお聞きしましたが、選んだ国がエストニアとのこと!
なぜエストニアを選んだのか教えてください。
私の父親が外国が好きで、洋画を見たり洋楽を聞くのが日常的な幼少期を過ごした影響で、海外への興味がずっとありました。だから、子供ながらに“外国に住むことが夢“と思っていました。
学習院大学という日本の大学を卒業した後、就職をせずにそのままフリーランスで、子供のころからやっていたテニスを教えるテニスコーチとして働いていたのですが、大学で研究や勉強の楽しさを知り、大学院に進学してもっと研究と勉強をしたいという気持ちが強くなり、大学院への進学を決意しました。
しかし、日本の大学は比較的学費が高く、大学院に進学するお金の余裕があまりなかったので、何か方法はないかと色々調べていた際、ヨーロッパの一部の大学は学費がかからないという情報をインターネットで見つけたのです。
そこから、気づいたらエストニアのタリン工科大学に進学していました(現地インタビュー記事)。
複数のドイツの大学からも合格をいただいたのですが、当時は世界的にも無名に等しい国だったエストニアという国に惹かれ、迷わず飛び立ったという感じですね。
―エストニアって”世界最先端のIT国家”、”デジタル先進国”というイメージだと思うのですが、ITの国だからエストニアを選んだのでしょうか?
いえいえ、むしろ『ITは興味がない』ってまわりに言っていたくらいなんですよ。
うちの親も当時、ITに対するイメージは悪く、いまだにスマホも持っていないくらいです。
今でこそ、日本で”デジタル先進国”というイメージがエストニアにはありますが、私がエストニアに行った2016年あたりは日本では全く話題になっていない国だったので、情報もほとんど無いに等しい感じでした。
単純に『行ったことも聞いたこともない国だし面白そうだな』と一番興味がわいたのがエストニアで、結構ノリと勢いで決めてしまいました。
―好奇心と行動力がすごいですね。ちなみに、当時のエストニアの物価はどれくらいだったのか、また、生活費はどれくらいかかったのか教えてください。
私があまりお金を使わない生活とエストニアの当時の物価が比較的安かったというのもあり、月々4万円くらいで生活していました笑
ありがたいことに大学での成績が良く、エストニア政府から月々約3万円の給付型の奨学金をもらうことができ、寮の費用が月々1万円だったので、ギリギリですが生活はできました。
また、日本でテニスコーチとして働いた分の貯金もあったので、なんとか貧乏学生生活を乗り切ることができました笑
ITはむしろ苦手だった?
―齊藤さん、ITが苦手だったとお話されていたのに、よくその世界へ飛び込めましたね。
なにか新しいことを始めるのにあまりハードルを感じないタイプなんですよね。自分でも好奇心は強い方かなと思いますし、面白いことが好きなので、簡単に乗り込めました。
タリン工科大学在学中、毎週水曜日の18時に放課後の時間でみんなで集まってコーディングをやろうよ、というサークルがありまして、そこでAIって意外と簡単に作れるらしいということを知り、Pythonを学んだところから、ITに関する勉強を始めました。
というか、そのプログラミングサークル、ピザを毎回大量に用意してくれるんですよ。
当時、お金がギリギリの生活で食費を浮かせるために、プログラミングよりは無料でご飯が食べれるから、という理由で参加していたというのが正直な話ですね笑
そのついでにプログラミングを学んだという感じです。
あとは、2018年あたりに日本でもエストニアがちょっとブームになって、訪問者が増えました。そのアテンドをする中で、知り合った方々にWebアプリの作成を頼まれるようになり、それに対応できるように独学で勉強しました。
―ピザがITの勉強の原動力になっていたとは!しかし、独学ってすごいですね?なかなかできることじゃないと思います。
まあ、みなさん大体独学なんじゃないんですかね笑
もともと理系で応用物理学を専攻していて、データをいかに使うかといったデータ分析の分野は得意なので勉強していたことの延長線上という感じで勉強しやすかったというのはありますね。
大学院の研究では小説の数値解析みたいなことをして(例えば、売れる小説の傾向を分析したりといった)いわゆるデータサイエンスの領域をやっていました。
最近話題のChatGPTも自然言語処理の分野だと思いますが、その理論に近いような領域だと思います。
―独学でもITの勉強をされてきた齊藤さんからみて、改めてITは学びやすい分野だと思いますか?
そうですね。今の時代、調べればある程度情報は出てきますし、安価で勉強もできる、独学もしやすい時代なので、とりあえずやってみようくらいの温度感さえあれば、誰でも、ITに限らずなんでも始められると思いますよ。
多彩な趣味
―お忙しいと思いますが、何か楽しまれている趣味はありますか?また、お休みの日はどのように過ごされているか教えてください。
趣味は多いのですが、中でもテニスですね。エストニアに行った時もエストニア語は全く話せないのに現地のテニスの大会に出場していたおかげで、学校とは関係のない様々な人と交流することができました。
現地の人も日本人とテニスをする機会が珍しかったのか、たくさん練習にも誘ってもらえて、テニスから人とのつながりの輪が広まりました。
あとは1ヒューマンビートボックスもやっていたので、現地のフェスの舞台やBarのステージに立ったりもしましたね。
そういった趣味から仕事に繋がっていくこともありました。
帰国後、香川県には仕事で1年弱程度滞在しましたが、時間が空いたらテニスをしてました。
地方移住を考えている方や留学を予定している方にはぜひ、スポーツでもなんでもいいので、自分の趣味や芸を手段として、ともかく現地コミュニティに参加すると色々輪が広がっていくのでお勧めしたいです。
―東京都出身の齊藤さん、エストニアに5年、香川にも一年弱お住まいだったと思うのですが、様々な視点を持つ齊藤さんからみて香川って改めてどんなところなのか、これから香川に移住を考えている方に向けて、ぜひ教えてください!
まず、香川県は天候に恵まれていましたね。雨がなかなか降らなかった記憶があります。
街中は車がなくても大抵のものは何でも揃うのでコンパクトシティといった感じで、住んでいて不便を感じることはなかったです。
気温も温厚ですが人柄も温厚な人が多く、打ち解けやすかったように思います。
―今後もこれだけはやり続けていきたいことってありますか?
そうですね、テニスなどの趣味は一生続けていきたいです。
V系やメタルが大好きなので、バンドなど他にもやりたいことがいっぱいあるのですが、やりたいことは仕事という枠にとらわれないようにしています。
会社としての取り組み
―これまで、株式会社シュタインズとしてどのような活動をしてこられたか教えてください。
1期目は現代アーティスト、エージェンシーと組んで、リアルとバーチャルで同時に展示会を開催しました。それは、非対面で個展を開くことができ、作品も購入できるようなVRのコンテンツでした。その他にもVRで言語を学べるアプリのデモなども作ったり、個人制作としてもVR空間に学校(私立VRC学園)を作りました。
現在、2期目は金融がテーマの教育アプリを作っています。
日本のお金の価値がどんどん下がっていく中で、貯金だけだと価値が目減りしていく。
だから投資をどんどんしなさいという流れがあると思うんですが、日本人は圧倒的に金融に対してのリテラシーがないので、そこを何とかしていきたいという試みです。
―齊藤さんが考えられている懸念事項としては、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
現在販売されてる金融関係の書籍や記事、YouTubeは短期的な『儲け』に主軸を置いているものが多いように見受けられ、長期的な『資産形成』を目的としたものは少なく感じます。
最近はスマホでも『簡単に稼げる』、『成功する』などといった投資のCMが非常に多く、自分に足りていない知識が何で、どの知識をつけるべきかがわからない状況の方が多いです。これでは、金融リテラシー向上の根本的な解決にはなりません。
また、金融のセミナーは高額なものが多く、手が届きにくいですし、若者を狙った詐欺も増えているのが現状です。
―確かに、日本は欧米に比べて金融教育が遅れていると言われていますね。高校でお金に関する授業が必修化されたのも、つい最近の2022年ですよね。
そうなんです。
プログラミングはProgateというアプリがあったり、英語はDuolingoというアプリがあったりと、今はアプリで手軽に様々なことを学べる時代なのに、金融業界にはそんなアプリがありません。
オンラインサロンはあるんですが、正解がわからない状態で入ったとしても、それが必要な情報なのか、正しいものなのかの判断もつかないわけですから、勿体ないだけです。
ですので、金融について、何が良くて何が間違っているのかをゲーム性を持たせて無料で学べるアプリを作っていきたいと思っています。
ですが、初心者向けの金融教育は、手がついてない領域なので先が見えず、正直手ごたえはまだない状態です。
これからも社会の役に立てるように『教育のデジタル化やゲーム化』を事業として進めていきたいとおもっています。
―今までもテニスコーチとして教育分野に関わったり、プログラミング教室でプログラミングを教えたりもしていたとお聞きしていますが、人に教えるのがお好きなんですね。
これからも教育の現場には関わっていきたいなと感じていらっしゃるのでしょうか?
そうですね。現在も大学で客員教員として学生に教えているので、今後も教育分野には関わっていきたいと思っています。
ITの世界や海外の大学など、未知の世界に思い切って飛び込んでいった齊藤さん。
その経験で培った広い視野をもって、また新たなことに挑戦していく。
齊藤さんの世界はまだまだ未知数の広がりをみせていっています。
齊藤大将(さいとうひろまさ)さん
株式会社シュタインズ代表取締役。 情報経営イノベーション専門職大学客員教授。 エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究に従事。 自社でテクノロジー×教育の事業や研究開発を進める一方、個人でも仮想空間に学校や美術館を創作する。 また、CNETコラムニストとしてエストニアとVRに関する二つの連載を持つ。
- ヒューマンビートボックス(Humanbeatbox)は、人間口や鼻などの発声器官を使ってリズムや効果音などを演奏するパフォーマンスのこと(略称はビートボックス) ↩︎